危険な略奪愛 お嬢様は復讐者の手に堕ちる
「どうしたの?」
すみれはしゃがんで目線を合わせると訊いてみた。男の子は首を横に振って泣き続けている。
「近くに交番があるから一緒に行こう」
すぐに警察を呼ぶべきか、いや交番まで連れていくほうが早いか。
ここから交番は5分程度だ。連れていったほうが早い。そうこうしているうちに雨足が強まる。今日に限って折り畳み傘を忘れた。バッグからスケッチブックを取り出して男の子の上に掲げて傘の代わりにした。
「ママはどこ?」
「死んじゃった。だからおばあちゃんのとこに住んでる」
その言葉を聞いて、一瞬凍り付いた。自分の過去を思い出す。すみれの母もある日突然倒れて病院に運ばれ、二度と帰ることはなかったのだ。
「俺が走って、交番まで行きます。その方が早い」
ぶっきらぼうに藍色の傘を差しだされる。黙って見ていた片桐が、小走りに雑踏の中へ消えた。
幸いにして、すぐに交番から駆けつけてくれた警察官に男の子を引き渡すことができた。
「ありがとう。あなたが呼んできてくれたおかげで助かったわ」
どうも緊急時にてきぱきと動くことが苦手だった。