危険な略奪愛 お嬢様は復讐者の手に堕ちる
戸惑い

 蓮はすみれを待つ間、あの雨の日に車に置き忘れたスケッチブックをパラパラとめくってみる。
 表紙は雨で歪んでしまったけれど、中身はさほど損傷していない。大切に扱って来たものだとすぐにわかったから、乾かして預かっておいた。

 その中の絵に目を奪われる。
 
 小さな子供が森の中を歩く絵だった。希望に満ちた目で、美しい光の中を歩いている。淡いタッチの優しい画風だ。美大を出たのは知っていたが、こういう絵を描くのか。
 一体どうやったらこういう色が出せるのか。絵心のない蓮にはさっぱりわからなかった。

 少し眺めたあと、勝手に人の心の中を覗いてしまったような罪悪感にかられて、そっとスケッチブックを置いた。

 ──あの男の娘にふさわしいもっと性悪で嫌な女だったらよかったのに。

 優雅な暮らし、美しい容貌。将来有望な婚約者。
 すみれを彩る表面上の華やかさに反して、すみれの内面はあまりに素朴だった。
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