危険な略奪愛 お嬢様は復讐者の手に堕ちる
うつむいたすみれには、その時片桐がどんな表情をしていたのか見えなかった。
父親が隠し子のことを知っていたならば、それを理由に達也との結婚は避けられないだろう。今まで父に逆らったことはないが、もしそうすればどれだけ恐ろしいことになるかは想像に難くない。しょせんは自分が成り上がるための道具なのだ。娘でさえも。
一番認めたくない事実に行き当たり、惨めになる。
黙って達也と結婚さえすれば丸く収まる。そのほうがきっと楽だ。けれど、それは自分の魂を殺すことと同じだった。
高速に乗り、家からどんどん遠ざかる。ぼんやりと車窓を眺める。
どこへ向かうのかも、目的もわからない。
どれくらいの間車を走らせただろう。景色を眺めているだけで、気持ちが少し落ち着いてきた。
手紙が来てから眠れない日々が続いていたから、心地よい揺れに、一気に眠気が押し寄せてくる。
「ここは?」
車が止まって目を覚ますと、海辺の小さな食堂の前にいた。寝ている間に遠くまで来たらしい。
都会の喧騒から逃れ、車は海辺の街に辿りついた。