危険な略奪愛 お嬢様は復讐者の手に堕ちる
「ここへはよく来るの?」
 
 黙っているのも気まずくて、小さな声で尋ねると、

「昔住んでた」

 短く答え、それ以上は何も言わず、すみれも聞かなかった。店の外からは海が見える。ここで育ったのだろうか。ガラスの向こう側から波の音が聞こえてくる。
 片桐の少年時代に思いを馳せていると、テーブルに新鮮な帆立や海老など魚介が運ばれてくる。
 
「焼きながら食うと旨いよ」

 慣れた手つきで網に乗せていく。

 ──いつもと話し方が違う。

 些細なことなのに、胸がどきりとする。ただすみれの安全を父に頼まれているから付き合ってくれているだけなのだと自分に言い聞かせた。

「こういう店来たことないでしょ?」
 
 子供の頃から体が弱く、父は多忙だったから家族旅行などもしたことがない。

 父の秘書としてすみれに一定の距離を保っていた片桐の様子がいつもと違う。なんだかこそばゆくて黙って頷いた。
 少なくとも不快ではない。テーブルの下で足と足が触れ合ったままだ。
 心臓がいつもより早く動いている。
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