危険な略奪愛 お嬢様は復讐者の手に堕ちる

 店を出ると、陽が落ち始めていた。
 車を置いたまま、砂浜を歩く。ヒールの細いパンプスでは砂に足を取られ、歩きにくい。
 ふいに手を取られて一瞬、時間が止まったように動けなくなる。夕闇の中、二つのシルエットが重なり、長い影を砂に落とす。

「……今日は風がないから波が静かだ」

 脱いだパンプスを置いたまま、手を繋ぎ、海へと入る。不思議な高揚で胸が満たされていた。少し冷たい海水も心地いい。

「楽しい……。さっきまでそんな気分じゃなかったのに」

 ほんの少し前までこの人とここへ来るなんて想像もつかなかった。きっともうこんな機会はないような気がして、だからこそ一瞬一瞬が大切に思えた。

「いつもなにかを我慢してるような顔してるから」
「私、そんなふうに見えるの?」

 それでは、不機嫌を隠せない子供と同じだ。急に恥ずかしくなる。

「いや、ただの偏見かもしれない。あの家に生まれるのは大変そうだ」

 それは同情なのだろうか。

「父は……あのとおり仕事人間だから。私は体も弱かったから絵ばっかり描いて気を紛らわせてた」
「あの絵……きれいだった。絵本の一部みたいな」
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