茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
(どうして……)

百子は目の前が真っ暗になり、その場に崩れ落ちるのを必死の思いでとどまる。陽翔のあの笑みは百子に向けるものと同じであり、それが他の女性に向けられているその事実が既に開いた傷口に熱したヤスリをかけられるほどの痛みをもたらす。ズキズキと心が軋む百子が見ている中で二人は立ち止まり、女性の顔が陽翔の顔に近づく。これ以上見てられなくて、百子は背を向けて走り出した。

(貴方も……貴方も私を裏切るの……?)

自分の思いを伝えた矢先に失恋するとは思わなかった。弘樹に裏切られたことよりも、陽翔にされた方が余程精神をずたずたにされたような気がする。自分を裏切った事実が心を苛んでいく。足元が頼りなくガラガラと崩れ、奈落の底に落ちていくような感覚と共に、頭を殴るような頭痛が飛来し、ひどい耳鳴りが不協和音を奏でる。目尻から熱いものが溢れたが、それを拭わずに百子は衝動的に美咲に電話をかけた。

『もしもし、百子?』

スマホの向こうからコツコツとリズミカルに歩く音と、彼女の明るい声が耳を打ち、百子はさらにその瞳からぽろぽろとぬるい液体を滴らせる。

「み、美咲……! ……お願い! 匿って!」

『ももちゃん、本当にどうしたの? 何かあった?』

おろおろとしている気配がしたが、百子はガンガンと頭を殴りつける頭痛を堪えて声を絞り出す。

「話を……聞、いて、ほしい、の! 直接……!」

スマホの奥から息を呑む気配がした。

『……わかった。うちにおいで。昼間にも話したけど、今日と明日は竜也はいないから。今高島駅で電車待ちだから、5両目辺りで待ってる』

「ごめん、あり、がとう……美咲。今は…、会社、の、最寄、り駅、だか、ら……高島、には、20分で着く、わ……」

百子はそっと電話の切れたスマホを下ろし、改札を通ってとぼとぼとホームへと足を運ぶ。百子は陽翔から、今どこにいるとメッセージが5分前に来ていることに気づいたが、今日は友人のところに泊まると送り、満員電車で人に揉まれながら静かに百子は涙を流した。
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