茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
すすり泣く千鶴と、彼女を宥めていた陽翔は、処置をした医師の元に通される。陽翔は椅子につく前に、縋るような声で告げた。

「あの……! 百子は……百子は無事なんですか?」

「はい。命に別状はありません。怪我は両腕と両脚の擦過傷と側頭部のみでした。側頭部は出血が酷かったようですが、傷そのものは小さく、救急車の中で出血が止まったようです……ですが……」

陽翔は彼女が生きていることに心底胸を撫で下ろしたが、医師は眉根を寄せたままだ。

「茨城さんの意識が戻りません。CTを撮ってみましたが、脳出血や脳の構造上の異常は確認されておりません……脳震盪による一時的な意識障害でしょう」

意識を取り戻した百子がいると思っていた陽翔は、医師の言葉に愕然とする。口を閉ざした彼の代わりに、千鶴はおずおずと尋ねた。

「百子は……いつ目覚めますか?」

「大抵は数分か数時間……大体6時間以内に目覚めることが多いですね。ただ、意識を取り戻してもその後の症状には気をつけた方が良いでしょう。急に眠くなったり、脳震盪の前後の記憶が飛んだり、頭痛が起こるなど、様々な症状がありますが、これには個人差があります。いずれも薬を処方して治療になりますので、入院するほどではありませんが」

陽翔はゆるく息を吐く。意識障害が長続きしないのと、百子の症状が軽いことに安堵したのだ。今日は流石に無理だが、明日なら百子と共に寝起きができるだろうと考えた陽翔は、同じく胸を撫で下ろしていた千鶴と目があった。二人は同じタイミングで頷き、医師の元を辞し、百子のいる部屋へと足早に向かう。

「百子!」

「百子……! 生きてて良かった……!」

頭に、両腕に、両脚に包帯が巻かれている百子は、二人の声に答えない。それでも百子の手は温かく、呼吸音も聞こえ、彼女が生きていることを確認でき、陽翔は脱力してベットの側に座り込んだ。千鶴も安堵して、太一に百子の状態を報告し、彼女の頭を撫でて頬をすり寄せる。そのまま彼女が無事な余韻に浸っていたかったが、夜も更けてしまったために、二人は早々に病院を辞し、それぞれ帰途についた。真っ暗な家が陽翔を迎えている事実が寂しさを増幅させたが、朝食の残りを食べて、広いダブルベッドに潜り込むと、さらにそれが加速した。

(今日だけだ……百子がいないのは今日だけだから……百子が目覚めたら、百子の欲しいものを聞こう。誕生日も近いしな。何を渡したら喜んでくれるかな……)

自分に必死で言い聞かせた後、あれやこれやと百子にプレゼントしたいものが浮べて気を紛らわせていた陽翔はいつの間にか眠りにつく。そして次の日の仕事が終わると、すぐさま百子の元へと向かった。

しかし陽翔の意に反して、百子の瞳は閉ざされたままだった。
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