茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
「私、結構意地悪なんだなって思ったわ。こんなことしても何の足しにもならないのにね」
「いいんじゃないのか? これくらいの意趣返しならバチは当たらんと思うぞ。裏切られた仕返しがこれなら可愛いもんだ」
陽翔はそう言って紙を差し出すので、百子は寝室のローチェストの引き出しを開けてメッセージを書いた紙を入れる。そこには『素敵な下着ですね。くたびれた下着を処分してくれてありがとうございます。飽きられないように頑張って下さいね』と書かれていた。
(絶対びっくりするわよね。半分以上は嫌味だし)
「それにしても、何で元彼宛てメッセージは封筒つきなんだ?」
「私が持ってる合鍵を入れようと思ったの。だからメッセージはついでよ。残すかどうか迷ったけど、やられっぱなしは何だか癪だから」
合鍵のことを失念していた陽翔は得心したように頷いた。ちなみに封筒に入れた紙には『お世話になりました。どうぞお幸せに』と書いてある。本当は弘樹が幸せになろうが不幸になろうがどうでも良いのだが、弘樹との思い出が全て悪いものかと言うとそうでもないので、そこには感謝してもバチは当たらないと判断したのだ。
「まあ浮気するというか、誰かを裏切るような人が幸せになれるかは微妙な気がするけど。というかあんまり幸せになってほしいとも思わない。これは嫌味みたいなものだわ。私のささやかな抵抗よ」
何やらどす黒い感情が湧きそうになったが、百子はそれを振り払う。弘樹を恨んでいるということは、彼に執着しているということだ。自分の時間を割くということは、自分の命を削っているも同然であり、それならば自分を捨てた弘樹のことより、陽翔との今後を考える方がずっと有意義である。
「でも、未練なんてないわ。ここは私の家じゃない。私が帰るべき家は陽翔の家だもの」
百子はそう言って鍵を封筒に入れてドアについているポストに入れる。カタンと小さく鳴ったその音を聞いた百子はもう振り返らなかった。
「百子、違うぞ。俺の家じゃなくて、俺達の家だろ」
エレベーターを待っている間に、陽翔はぼそりと告げる。だが百子は聞こえていたようで、陽翔の唇に口づけする。
「ふふ、嬉しい。ありがとう、陽翔」
陽翔も百子に口づけし、そのまま彼女の唇を舐めて舌を入れようとしたが、エレベーターが到着したので、名残惜しそうに唇を離した。
「とりあえず一度帰ろうか。荷解きもしないとだしな」
「うん。帰りましょう。私達の家に」
百子と陽翔はお互いに見つめ合い、そして微笑んだ。外に出ると肌にまとわりつく暑さが彼らを迎えたが、彼らの心情はその空と同じくらいに澄み切っていた。
「いいんじゃないのか? これくらいの意趣返しならバチは当たらんと思うぞ。裏切られた仕返しがこれなら可愛いもんだ」
陽翔はそう言って紙を差し出すので、百子は寝室のローチェストの引き出しを開けてメッセージを書いた紙を入れる。そこには『素敵な下着ですね。くたびれた下着を処分してくれてありがとうございます。飽きられないように頑張って下さいね』と書かれていた。
(絶対びっくりするわよね。半分以上は嫌味だし)
「それにしても、何で元彼宛てメッセージは封筒つきなんだ?」
「私が持ってる合鍵を入れようと思ったの。だからメッセージはついでよ。残すかどうか迷ったけど、やられっぱなしは何だか癪だから」
合鍵のことを失念していた陽翔は得心したように頷いた。ちなみに封筒に入れた紙には『お世話になりました。どうぞお幸せに』と書いてある。本当は弘樹が幸せになろうが不幸になろうがどうでも良いのだが、弘樹との思い出が全て悪いものかと言うとそうでもないので、そこには感謝してもバチは当たらないと判断したのだ。
「まあ浮気するというか、誰かを裏切るような人が幸せになれるかは微妙な気がするけど。というかあんまり幸せになってほしいとも思わない。これは嫌味みたいなものだわ。私のささやかな抵抗よ」
何やらどす黒い感情が湧きそうになったが、百子はそれを振り払う。弘樹を恨んでいるということは、彼に執着しているということだ。自分の時間を割くということは、自分の命を削っているも同然であり、それならば自分を捨てた弘樹のことより、陽翔との今後を考える方がずっと有意義である。
「でも、未練なんてないわ。ここは私の家じゃない。私が帰るべき家は陽翔の家だもの」
百子はそう言って鍵を封筒に入れてドアについているポストに入れる。カタンと小さく鳴ったその音を聞いた百子はもう振り返らなかった。
「百子、違うぞ。俺の家じゃなくて、俺達の家だろ」
エレベーターを待っている間に、陽翔はぼそりと告げる。だが百子は聞こえていたようで、陽翔の唇に口づけする。
「ふふ、嬉しい。ありがとう、陽翔」
陽翔も百子に口づけし、そのまま彼女の唇を舐めて舌を入れようとしたが、エレベーターが到着したので、名残惜しそうに唇を離した。
「とりあえず一度帰ろうか。荷解きもしないとだしな」
「うん。帰りましょう。私達の家に」
百子と陽翔はお互いに見つめ合い、そして微笑んだ。外に出ると肌にまとわりつく暑さが彼らを迎えたが、彼らの心情はその空と同じくらいに澄み切っていた。