茨の蕾は綻び溢れる〜クールな同期はいばら姫を離さない〜
「陽翔……待って、何でよりにもよって……」

「別にいいだろ。俺がプレゼントしたいと思っただけだ。それに数があっても困らないだろ?」

今ひとつ釈然としない百子だったが、陽翔の言うことが正論なので百子は押し黙り、フリルとレースが上品にあしらわれている可愛らしいランジェリーを手に取る。陽翔が百子の必需品を買いたいと外に連れ出したのは良いのだが、まさかランジェリーの店に引っ張られるとは思わなかった。何故陽翔が彼女の好きなブランドを知っているかは不明だが。

(ありがたいと言えばありがたいけど……)

持って帰るはずだったランジェリーを根こそぎ処分されてしまっている今、洗い替えが少ないのはかなり心許ない。弘樹の浮気相手へのメッセージはかなり強気ではあったものの、実はかなりショックだったのだ。とはいえ3年以上使っている物もいくつかあったので買い替え時であるのも事実なのだが。

「陽翔、試着してくるから待ってて」

百子は気に入ったブラジャーを3つほど選び、怪訝な表情をしている彼に声を掛ける。

「ブラジャーって試着するもんなのか?」

「うん。同じメーカーでも型が違うとつけた感じが違うから……陽翔、お店出て他のところうろついてもいいのよ? 男性はこういう所は気まずいって思うでしょ?」

何故か百子が頬を赤らめて目をそらすので、陽翔は思わず首を傾げた。

「いや、別に。百子と買い物するのは楽しいし。それに……」

陽翔は一度言葉を切って、百子の耳元に口を寄せた。

「俺はただの布には興味ない。着てない下着は所詮布切れだしな」

陽翔はそっと百子から離れると、彼女の顔が茹でダコのように赤くなっているのを見て表情を和らげる。だが百子は陽翔と睦み合ったことを瞬時に思い出し、陽翔の肩を何度か叩いた後に試着室へ向かった。忍び笑いをしていた陽翔は、百子が試着室から出る前に他のランジェリーを物色し、どれが彼女に似合うかをぼんやりと考えていた。

(百子なら……青よりは赤とかオレンジが似合いそうだな。ひらひらの物よりはレースがあった方が綺麗だろうし)

陽翔は自分の想像の中で百子を着せ替えしていたが、総レースのランジェリーを見つけてしまい、段々と下半身に熱が集まるのを感じ取った。流石にまずいと考えた陽翔は、瞬時に今日の夕食の献立に意識を集中させることにする。

「ただいま、陽翔。あれ、怖い顔してどうしたの?」

百子の声に我に返った陽翔は、なんでもないと首を振る。そして会計を済ませて店を後にし、帰途についた二人だったが、家の最寄り駅を出て少しすると砂降りの雨に遭遇してしまった。
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