愛しのプラトニック・オレンジ~エリート消防官の彼と溺甘同居中~
通りかかったという表現に苦笑する。家は逆方向だし、会える保証もなかっただろうに。

「ああ。すぐに勤務に戻るよ。だがその前に、せっかくだから袴姿を見せてくれ」

彼女はパッと顔を上げると、照れくさそうに両手を広げ、くるりと一回転した。

淑やかな和装がとてもよく似合う。

情熱的な紅色も、上品な藍色も。くるくると巻かれた髪が肩にかかって良家のご令嬢のようだ。大きな牡丹のかんざしも愛らしい。

メイクは大人っぽくて、もとより綺麗な顔立ちをしているが、美しさが増している。

「すごく綺麗だ。見られてよかった」

彼女はふふっとはにかむと、これ以上邪魔してはいけないと気を遣ったのか、「お仕事、頑張ってね」と言い残しそそくさと帰っていった。

余韻に浸るように深呼吸をする。彼女の袴姿が――笑顔が見れてよかった。

切り替えて勤務に戻ろうと振り返った、そのとき。

「勤務中に女にうつつを抜かすたぁ、いい度胸だ」

目の前に怒気を纏った八尾隊長がいて、さすがにまずいと凍りついた。

「申し訳ありませんでした!」

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