敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
 そうしているうちに臆病になって、誰かを好きになるのが怖くなっていった。嫌われるくらいなら最初から必要としない方がいい。

 でも隼人さんと結婚して、甘えてもいいんだって教えてもらった。失敗して、迷惑をかけて落ち込む私に、頼ってほしいと言ってくれた。

 嫌な顔ひとつせず弱いところを受け入れてもらえて、少しだけ自分を許せた。全部、隼人さんのおかげだ。

 バッグからハンカチを取り出して目元を押さえる。すると彼の手が頭から離れ、車は動き出した。再び車内は沈黙に包まれたが、気まずさなどは感じない。むしろ彼のそばはこんなにも心地いい。

 私の気持ちが落ち着くのを、隼人さんは静かに見守ってくれている。逆に彼がそばにいるから、私もこうして自分の感情を素直に吐き出せるんだ。

 ややあって私から何事もなかったかのように夕飯の話題を振ると、隼人さんもいつも通りに答えてくれた。

 体調を気遣われつつ帰宅してから夕飯の準備をする。といっても下ごしらえをしていたグラタンを焼くだけだ。具材は海老とホタテをメインにして、サラダやスープなどはもう完成している。

「なにか手伝おうか」

「じゃあ、サラダが冷蔵庫に入っているのでテーブルに出してください」

 手伝いを申し出た隼人さんに、今日は素直にお願いする。思ったより帰宅が遅くなってしまい、早く準備しなければという思いもあった。

 それでも以前の私なら、雇われているのだからと頑なに手伝いを固辞しただろうな。
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