敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
「すみません。あの、好き勝手言ってしまい……」

 肩を縮めて身をすくめていると、社長がふっと笑みをこぼした。

「いや。俺が頼んだんだ。聞けてよかった」

 彼の表情に安堵しつつ胸が高鳴る。しかし、すぐさま自分の立場を思い出し、自身に言い聞かせる。

 よかった。これが依頼主の要望だったのなら、私は自分の仕事を全うしたまでだ。時計を見て立ち上がる。カップの中身もすっかり空になっていた。

「私、そろそろ帰ります」

 立ち上がって社長に告げる。時刻は午後八時半になるところで、もういい時間だ。畳んでいたコートと書類の入っていたバッグを持ち直す。

「車で送っていく」

 あまりにもさらりと放たれたひと言に、つい彼を二度見してしまう。席を立ち、彼も外に出る準備をしはじめるので私は慌てた。

「大丈夫です。お気遣い無用ですから」

 このマンションは、専用の通用口が駅に直結していて利便性は抜群だ。送ってもらうほどの距離でもない。

「君は紅から派遣されたスタッフであるのと同時に俺の会社の人間なんだ。ひとりで帰すわけにはいかない」

「で、ですが……」

 きっちり線引きをすると誓ったばかりだ。依頼主の家事をはじめとする負担を軽減するために派遣されているのに、手間を増やしてどうするのか。

「信用できないなら、無理強いはしないが。こちらの要望に最善を尽くしてくれるんだろ?」

 自分の発言を持ち出され、それ以上反発できなくなる。前者にしても、後者にしても私に断る選択肢などないのだ。
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