敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
 軽く肩をすくめて、彼に従う旨を告げる。

「わかり、ました。お願いします」

 社長の立場からすると、私みたいな一契約社員に言うことを聞かせるのなんて造作もないのだろう。

 玄関で靴を履き、なにげなく顔を上げると、すぐそばにいた彼と目が合った。

「ちなみに、沢渡さんがうちの社員という理由で継続をお願いしようと思ったのも事実だが、それ以上に君の仕事ぶりを純粋に評価したからなんだ」

 そう言って社長はドアを開けた。しかし私はすぐに動けない。

 やっぱり彼は人の上に立つ人間だ。こんなにもさりげなく、人の心を浮上させてしまうのだから。

 ああ、もう。ここに来たときから社長の言葉にいちいち踊らされすぎだ。いつもならもっと淡々と業務に取り掛かるし、依頼主ともきっちり線を引いたうえで接するのに。

 自分らしくないと思いつつ彼についていき、地下の駐車場に向かう。並んでいる車は、どれもピカピカに磨き上げられて、展示場さながらだ。

 その中の見るからに高そうな外国製の車に、促されるまま乗り込み、助手席に座る。シートベルトの位置がわかりにくくあたふたとしたがなんとかセットできた。ふかふかのシートは、ラグジュアリー感たっぷりだ。

 マンションに足を運んだときから感じていたが、やはり社長とは住む世界がまったく異なる。

 エンジンは思ったより静かで、車はゆっくりと動き出し、明るい駐車場からすっかり暗くなった夜の世界へと出た。
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