元カレと再会ワンナイトで愛を孕んだので内緒の出産をしましたが入れ替わったらバレました
「……ん、大丈夫だよ。さっきからちょっと眠たかっただけ。大きなあくびをしたの。二人ともずいぶん長く入っていたからのぼせてない?」
「いや、湯の温度が低くかったから大丈夫だけど、さすがに喉が渇いた」
「今日泊まっていく? ビールもあるけど」
「だだ、とまって! あしたこうえんにいこう?」

 ひなが期待に満ちた目で大輝を見ている。

「あー……ひなごめん。明日は朝早いんだ。今日手術した患者さんの様子を見ておきたくて」

 オンコールじゃないとは言っていたけど、やっぱり気になるよね。
 
「そっかー。じゃあまたこんどね。だだ、がんばってね」

 ひなはわがままを言わない。
 それは迷惑をかけちゃいけないことをもうこの年でわかっているからだ。

 シングルマザーの私に、周りの人は本当に善くしてくれる。
 私は恵まれていると思うけれど、だからと言って相手の都合も考えず頼ったり甘えたりすることはない。
 むしろ「ごめんね」「ありがとう」という言葉を欠かさず周りに伝えてきた。

 なるべく迷惑をかけないように、感謝の気持ちをいつも伝えて……と、そう思って。

 でも私のそんな態度がそのままひなにも受け継がれてしまったのよね。
 
 祖母が生前言っていたことがある。
 
「杏子の気遣いはわかるよ。皆にありがたいと思っている気持ちもね。でもね、もっと遠慮なく甘えてくれていいんだよ。孫がばあちゃんに遠慮するもんじゃない。杏子が遠慮するから、ひなまで皆に遠慮しているじゃないか。ばあちゃんはね、もっと無邪気に甘えられたいのさ。浩一だって、知美さんだって同じだと思うよ」
 
 つまり、祖母は私やひなの態度に遠慮という壁を感じたということだ。
< 78 / 228 >

この作品をシェア

pagetop