振り返って、接吻
近年大きく事業を増やしている宇田グループのご令嬢は、この学校でかなりの権力者だ。でも、しょせん、歴史ある深月財閥には一生敵わない。
それなりに整った容姿で、褒められることも少なくない。だけど隣に由鶴が並んだら、わたしなんてただの〝かわいい子〟だ。言葉を失うような美貌ではない。
そして、由鶴唯一の欠点である社交性も、今ではすっかり問題ない。きちんと友だちがいて、ひとりでも話せる。もう、わたしを必要としていないみたいに。
感情に任せて言葉を発するなんて、わたしらしくない。
だけどもう、止められなかった。
「わたし、由鶴のこと、大嫌いなんだよね」
ひゅっと息を飲んだ恐ろしいほど美しい顔を見て。煌めく瞳のなかにある瞳孔が、かっと開くのを見つけて。
———ああ、わたしは言ってはいけないことを言ってしまったのだと理解した。
純粋な由鶴のこころに、ざくり、傷口をつくった。透明な血が噴き出している。
幼馴染に残酷な言葉を投げつけられた由鶴は、肌の白い顔を真っ青に変えて、「俺、保健室いく」とだけ告げてわたしの前から立ち去った。
付き添ってあげるわけにもいかないわたしは、何ひとつ言い返さなかった由鶴に対してぐちゃぐちゃな気持ちのまま立ちすくんでいた。