振り返って、接吻
———そして、華の金曜日。
我が社でも忘年会を行う、年の暮れの寒い日のことだった。
じつは寒がりである俺がきちんとマフラー手袋を装備して他の社員よりも少しだけ遅れて会場となる居酒屋へ向かった。
そこは、開始して2時間と経っていないはずなのにそれなりに出来上がってる奴らばかりで、“楽しそうな空気”が充満していて、軽く吐き気がした。
化粧品会社ということもあるのか、男女問わず比較的容姿の整った者が集まっているうちの社員たち。その若くて覇気のある視線たちが一斉にこちらへと向けられて、根が陰鬱な俺はすっと視線を落とした。
俺は冷気を纏った上着を脱ぎ、端っこの席に着いた。それだけの仕草できゃっきゃと喜ぶ部下たちを心底不思議に思う。
俺が来たことによって空気がなんとなく厳かなムードに変わってしまいそうだったので、目の前にあったお冷に口をつけながら「気にせず話して」と促した。