振り返って、接吻
すると。
「うわあ、近くで見ても美しい…!」
「僕、副社長に憧れて、この会社受けたんです!」
「先日のプレゼン、アドバイスありがとうございました!」
「かっこよすぎます、尊敬してます本当!」
流れ込むように俺に話しかける言葉たちが溢れて来た。
さすがに理解が追いつかなくて、「ひとりずつにしてよ」と愚痴る。
いつも思うけど、俺のポテンシャルに対して、周囲からの評価は高すぎる。見合ってない。ほんと。
達筆で書かれたメニュー表を差し出す部下に浅く頭を下げ、ソフトドリンクの欄をさらりと眺めた。四方八方から明るい声が飛んで来て、慣れない空気にすでに疲れている。
呼ばれた店員に「烏龍茶」と伝えれば、「副社長ってまさかお酒、」と居酒屋タブー説が流れ始めた。ああ、頼むから、もう、俺を放っておいてくれ。
とは言えずに、首をゆるく横に振って否定する。
「今日は車で来ちゃったってだけだから、オマエたちが気にするようなことじゃないよ」
スマホが手元にあるのを確認しながら、メニュー表を返す。オマエらの無礼講も許すから、根暗な上司のことも許してくれ。