振り返って、接吻
それから、味付けの濃い料理を少しつまむ。初めて口にしたタイプの鍋が想像以上に美味くて、いつか宇田に食べさせたいと思った。似たようなものなら家でも作れそうだ。
あいつはたまに俺が料理してあげると異常に喜ぶからね。絶対宇田が自分で作るほうが美味いのに、と思うけど、そういう理屈で彼女を片付けることは不可能だ。
「副社長って学生の頃からそんな格好よかったんですか?!」
烏龍茶をストローで飲んでいる姿を見て、向かいに座っていた営業部の子が話しかけてきた。
そいつは男のくせに合コンで女の子が飲むような甘ったるい酒を飲んでいた。男女差別?どうでもいいけど、甘い酒とチャンジャの組み合わせって最悪だろ。
そんなことを考えていたせいで返事を疎かにしていると、次から次へと声が飛んでくる。
なんていうか、さすが、宇田が選んできた社員なだけあるな、というかんじ。うちの採用は、しっかり社長との面接がなされている。
「社長は、副社長のことずっと変わらないって仰っていましたよ」
「男女の幼馴染で会社立ち上げるってどんな夢物語ですか」
「あれ、おふたりっていつからの知り合いでしたっけ?」
こういう交流の場に姿を見せるのが珍しい上司は、やたらと絡まれるらしい。仕事納めの疲れも重なって、「家族ぐるみだから、生まれる前から知り合い」と淡白に答えた。