振り返って、接吻

だから、宇田は俺を離せない。ある意味でベタ惚れ、依存している。



「そろそろ俺は帰るよ」

「うわあ無視かよハニー」

「吐きそう」

「ご冗談を」


そして思い出したように、「そういえば社長が、プレゼンの記録を借りたいって仰ってましたよ」と。


「俺はあいつのパシリじゃない」

「その通りっすね、社長がその段階の企画に口出すことはないだろうし」

「うん、それじゃあね」


オマエも帰れという意図をしっかり察した茅根は、失礼しました~とゆるい挨拶をして出て行った。


俺も帰ろう。空腹を感じる。よく考えてみれば朝から何も食べてない。

明日のやることを頭の中で整理しながら、上着を羽織ると、「おつかれハニー!」という首を絞めたくなるような声と同時にヤツが入ってきた。


なに、わざと?ほんとタイミング悪い。あと2分後なら帰ってたのに。



「記録かしてー」

「やだ」

「なんで!」

「もう鞄にしまっちゃったし」

「わかったわかった、じゃあ由鶴の家とめて」

「金取るよ、いい加減」



こうして、宇田は週1以上のペースでうちに来るのだ。ほんと迷惑。存在するだけで迷惑なのに、図々しく泊まろうとするのだから害悪だ。


だけど、俺が拒否しないことを分かっている宇田は、「今夜は餃子だあ!」とこぶしを宙に突き上げた。

いいね、餃子。エビチリも食べたいな。中華の気分。


この人間のふりをした地球外生命体と極々珍しく気が合ったみたいだ。


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