神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
…お前…。

良かった、無事で…。

「無事じゃないですよ…。いたたた…。死ぬほど痛い。あ、いや死にませんけど。肺が潰れてる…」

元気そうだな。肺が潰れてる割には。

どうやって喋ってるんだ…?

「ほら、僕ほど死に慣れてると…内臓の潰れ方も器用になるって言うか…」

「あー、はいはい。良いから、お前はさっさと医務室行って寝ろ」

そのまま、一週間は起きるなよ。

勝手に起きようとしたら、すぐりの糸魔法でベッドにぐるぐる巻きにしてもらうからな。

「…とりあえず、壊れた備品の補充は学院長のポケットマネーから出すとして…」

と、イレースは杖をしまいながら言った。
 
マシュリの暴走は、シルナの責任でもないのだが。

それでも壊れたものの代金は、シルナが払わされるらしい。

可哀想。

「中断してしまった授業の補習…。それから、そこの読心色ボケ教師が回復するまでの補習…。…はぁ、また授業計画の立て直しですね」

いつもごめんな、イレース。

イーニシュフェルト魔導学院の授業計画、毎年イレースが完璧に立ててくれてるのに。

毎年色んな事件に巻き込まれるせいで、計画通りに実施出来た試しがないな。

波乱万丈過ぎるだろう、この学院。

「イレースちゃん。生徒達は…?」

と、シルナが尋ねた。

シルナにしてみれば、急いで学院に帰ってきたら、既にマシュリが大暴走状態だった訳で。

ずっと、生徒達がどうしているのか、何処にいるのかと心配だったのだろう。

「抜き打ちの避難訓練ってことにして、皆稽古場に避難してるよ」 

イレースの代わりに、令月が答えた。

避難訓練…。

訓練って言うか…マジの避難だったんだけど…。

当然ながら、本当は何があったのかなんて、生徒に伝える訳にはいかないし…。

申し訳ないけど、そのまま避難訓練だと思っていて欲しい。

「抜き打ちの避難訓練か…。ちょっと苦しい言い訳だな…」

勘の良い生徒なら、これが訓練じゃないことに気づいているかもしれない。

…が。

「だいじょーぶだよ、多分。イレースせんせーがそれっぽく説明してたからさー」

と、すぐり。

「そうなのか?」

「うん。『災害はいつ起きるか分からないものです。いついかなるときでも、冷静に行動する訓練だと思いなさい』って」

うわー、言いそう。

そりゃまぁそうなんだけど。実際、今回の「災害」も…予告なしに突然起きたものだし。

だからって、突然授業中に避難訓練を始める、なんて言われたら。

生徒達、皆腰抜かしただろうな。

「そっか…。じゃあ、生徒は皆無事なんだね?」

「僕と『八千歳』以外は、皆無傷だよ」

…それを聞いて安心した。

…いや、令月とすぐりも生徒なんだから、お前達も無傷であって欲しかったんだが。

とりあえず、生きてるんだから良し。

「…ごめん」

しゅんと落ち込んだ様子で、マシュリが呟いた。

…また謝ってんぞ、こいつ。
< 296 / 699 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop