神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「えっ、うぇ、ふぇっ!?えぇぇぇ!?」

シルナもこの狼狽えぶり。

そりゃ異空間に逃げたくもなる。

シュニィが、何者かに攫われただって?

…ハルマゲドンが起きた、って言われた方が、まだ冷静でいられたと思うよ。

「や、や、や…ヤバい。それはヤバい。ヤバいよ…!」

シルナの語彙力が死んでるが、今だけは俺も全く同感だ。

これはヤバい。

めちゃくちゃヤバい。

「あぁ…。…俺達も逃げた方が良いかもしれないな…」

教師としての責務とか、そういうしがらみが一切なかったとしたら。

今頃俺は、異空間とは言わずとも…。

最低でも、国外に逃亡してただろうな。

当たり前だろ。逃げるに決まってる。

俺が心配しているのは、シュニィのことではない。

いや、シュニィも心配だけどさ。

でもシュニィの実力であれば、そこらのチンピラ集団くらいじゃあ、あっという間に返り討ちだ。

余程のことがない限り、シュニィが負けるはずがない。

だから、そういう意味では心配していない。

俺が心配しているのは、シュニィではなく…。

「…キュレム、一応聞いておく」

「何だよ」

「…それ、アトラスはもう…知ってるんだよ、な?」

ルイーシュとキュレムが逃げるくらいなんだから、当然…。

「あぁ、知ってる」

そうだよな。

「…どうなった?」

「…聞くのか?それ…」

「…一応…」

もしかしたら、意外とアトラスも大人な対応をするかもしれないじゃないか。

あいつももう、立派な大人だもんな。二児の父だしな。

ここは父親としての威厳を見せ、如何なる事態が起きても冷静に対処、

「安心しろ。…大荒れだ」

…なんてことはなかった。

アトラスは、やっぱりアトラスだった。

そうか…駄目だったか…。

…だよなぁ。一瞬でもあいつに冷静な判断を求めた俺が馬鹿だった。

シュニィの身に何かあって、あいつが落ち着いているはずがない。

「どんな様子だ?アトラスは…」

「爆発寸前だ。『ぶっ飛ばす』って一言言ったきり、全く口を利いてない」

逆に無言の圧力が怖いパターンだな。

「エリュティアが今、全力でシュニィの居場所を探してるが…エリュティアも半泣きだった」

可哀想。

うっかりシュニィの居場所を見つけ損なったら、とばっちりを受けてもおかしくない。

そうか…猫探しなんて頼める状況ではないな…。

いろりも大事だけど、さすがにシュニィの方が優先度は高いぞ。当たり前だけど。

俺達としても、他人事ではいられない。

正直アトラスと関わり合いになるのが怖いから、俺も逃げ出したいんだが。

…そうは行かないだろ。シュニィは大事な、元教え子だからな。
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