神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜
「あれ…。キュレムじゃないか。珍しいな」

この学院の卒業生であり、聖魔騎士団魔導部隊でもあるキュレム・エフェメラルであった。

びっくりした。突然会いに来るとは。

丁度今、こちらから聖魔騎士団隊舎に向かおうとしていたんだが…。

キュレムの奴…今日は一人なのか?

「ルイーシュは?一緒じゃないのか」

大抵キュレムは、相棒であるルイーシュと一緒に行動してるんだが。

俺が基本的に、シルナと行動を共にしているのと同じだな。

しかし、今日はルイーシュの姿が見えない。

「あぁ。あいつは…逃げた」

キュレムは眉間に皺を寄せて、苦虫を噛み潰したような顔で答えた。

…逃げた?

「逃げたって…何処に?」

「異空間だよ」

空間魔法使いならではの逃げ場所。

誰も追ってこられないし、ルイーシュだけの秘密基地みたいなもんだ。

ルイーシュが労働から逃げるのはいつものことだが。

異空間にまで逃亡するのは、滅多にないことだ。

大抵は、連れ戻されるのを待っているかのように、キュレムが追いかけてこられるところまでしか逃げないからな。

ルイーシュにとっては、「任務から逃げる→キュレムに捕まる→渋々任務に同行する」という、いつもの一連の流れ。

これを経てからでないと、仕事に対するやる気が出ないんだと思う。

それでやる気を出すんだから、まぁ可愛いもんだと思ってる。

毎回付き合わされるキュレムにとっては、いい加減にしろと思ってるだろうけど。

しかし今回、ルイーシュはキュレムでさえ追いかけてこられない、と言うか。

空間魔法使いでもなければ、誰も追いかけてこられない場所に逃げ込んでいる。

これは一体何事だ。

「…まぁ、かく言う俺も…学院に逃げてきたんだけどな」

と、キュレム。

キュレムまで…?

「逃げてきたって…どうしたんだ?実は俺達も丁度、聖魔騎士団に行こうと思ってたんだよ」

「おぉ、そうか。そりゃ無理だ、やめとけ」

えっ。

「やめとけ…?何で?私達、エリュティア君に頼み事をしたくて…」

「無理無理。エリュティアなんてもっと無理。悪いことは言わんから諦めろ」

…本当にどうしたんだ?

もしかして、やっぱりエリュティアは任務で不在?

そうすると、いよいよ闇雲に街中を走り回る羽目になるが。

「…わー…。僕は不死身で良かった。命がいくつあっても足りませんよ…」

キュレムの心を読んで、いち早く事情を察したらしいナジュがそう言った。

おい、お前一人だけで納得してんな。ちゃんとこっちにも話せよ。

命がいくつあっても足りないって?

更に、ルイーシュが異世界にまで逃亡し、キュレ厶まで学院に逃げてきたとのこと。

一体何事だ?

「どうしたんだ、キュレム。聖魔騎士団で何かあったのか?」

「あぁ。あった…大事件が」

「…何なんだ?大事件って」

「良いか、落ち着いて聞けよ」

そう言われると、逆に落ち着かないんだが…。





「…シュニィが、何者かに攫われた」






…ふむ、成程。

…。

…そりゃ逃げるわ。
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