冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
「事件が解決したら趣味のお教室に通ってみようかな? 人に披露できるレベルを取り戻すのには何年もかかってしまいそうだけれど」

(その頃には赤の他人になってしまっているかな)

「ゆっくりでいい。俺はいつまででも待つから」

 この場かぎりの社交辞令だとしても嬉しかった。

 甘やかな空気に胸がきゅうと締めつけられる。美理といるときの楽しい気持ちとはまた違う。左京のそばは、心臓がうるさくて落ち着かなくて……なのにどうしてか離れがたい。危ないかもと思いながら、触れてみたくて手を伸ばしてしまう。

(もしかして、こういう気持ちを恋と呼ぶのかな)

 自分が誰かに恋をするなんて想像もしていなかった。でも、この感情を言い表すのに『恋』よりしっくりくる言葉は存在しないように思えた。

 意識したらとてつもなく恥ずかしくなって、蛍はガタンと音を立てて椅子から立ちあがる。

「どうした、そんなに焦って」
「えっと。食後のコーヒーを飲みたいなと思いまして。左京さんも飲みますよね?」
「それは俺がやるよ。ソファでゆっくりしてて」

 蛍を制して、彼がキッチンに入っていく。
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