冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
 蛍の首筋の辺りで彼が鼻をヒクヒクさせる。うなじに吐息がかかって、心臓がドクンと跳ねる。

「その、多分フェイスクリームの匂いじゃないかと。ゼラニウムの精油が入っているやつなので」
「あぁ、本当だ」

 左京の鼻が蛍の頬にぶつかる。

(ひゃあ! ち、近い)

 彼は意外と自分の魅力に無自覚だ。蛍の前で平気で着替えたり、今みたいにふいに近づいてきたり。

(ううん、これはわかってやっている?)

 翻弄されるばかりの蛍とは対照的に彼は涼しい顔だ。テーブルの上のクリームに視線を向けて首をかしげた。

「ゼラニウムってなんだ?」
「お花ですよ。香りがいいので、アロマオイルに利用されることが多いです」

 蛍の説明を物珍しそうに聞いたあとで、彼は言った。

「うん、この香りは蛍によく似合うな」

 それから左京は急に真面目な顔になって、蛍の手を取った。

「あ、あの?」
「これ」

 彼が蛍の手を開かせる。そのうえに青いリボンのかかった小さな箱がのせられた。キョトンとした顔で蛍は彼を見返す。

「なんでしょう」

 さっぱり見当もつかない。

「その、いつも料理をしてくれる礼のつもりで……」
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