冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
 尾行している男を油断させるためという目的はあったけれど、左京とはキスをしたことがある。でもその事実は、このドキドキを鎮める役には立たなかった。

(だって、あのときとは全然違う。今の私は……左京さんが好きだから)

 左京はふっと苦笑いを浮かべる。

「あれとこれは、比べられない。まったく別物だろう」

 彼はどう違うと思っているのだろう。聞きたいような、知るのが怖いような。

「それに今は、蛍に嫌われるのが怖くてたまらないから。自信満々な王さまではいられない」

 自嘲するように彼は笑う。蛍は素直な気持ちを彼に伝える。

「左京さんを嫌いになんて、ならないです」

 長い指がクイと蛍の顎をすくう。

「それはイエスの返事だと解釈していいか?」

 蛍がうなずくより早く、彼の唇が触れた。柔らかくて甘い。

 初めてのキスは驚愕と恐怖、このふたつしか感じなかった。でも今は――。

(本当のキスってこうなんだ)

 胸に温かなものが広がって、心地よさにとろけてしまいそう。左京の優しさが全身に流れ込んでくるようだった。

「左京さん」
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