冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
「左京さん。帰る前にお手洗いをお借りしてもいいでしょうか」

 小声で彼に聞くと、隣にいた貴子が「私が案内するわ」と申し出てくれた。

 時代劇の舞台のような、長い廊下を歩きながら貴子と話をする。

「緊張した?」
「はい、少し」

 貴子は優しくほほ笑みながら蛍に言った。

「蛍さん。左京のこと、よろしくお願いしますね」
「え? でも私たちは……」

 本当の意味で夫婦になったわけじゃない。貴子もそれは知っているはずなのにどういう意味なのだろう。

「あの子ね、この家の人たちを見返してやるって少しでも早く大人になろうとしていた。恋とか友情とか青春とか、そういう楽しみは全部切り捨ててしまったように見えて……私は母親として不甲斐なく思っていたの」

 貴子の言いたいことはなんとなくわかる気がした。

 左京は自分に厳しく甘えを許さない。一緒に暮らしはじめて、彼のそういうストイックさはすぐに理解できた。

「だからね、事情があって奥さんになった蛍さんにも愛のない冷たい態度をとっているんじゃないかって心配してたのよ」

 そこで貴子はふふっと嬉しそうに口元を緩ませた。
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