冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
「でもさっき、並んで歩くふたりの姿を見てびっくりしたわ。本物の夫婦みたいに肩を寄せ合って、左京が誰かにあんなふうに優しく笑いかけるところなんて初めて見たから」
「そ、そうでしょうか」
「えぇ! 左京にもやっと心安らげる場所が見つかったのねって、嬉しくて涙が出そうだった。だから蛍さん、あの子に愛想をつかさないでやってね」
「そんな。愛想をつかされるとしたら、きっと私のほうですよ」

 貴子が想像しているほどの関係になれているかは正直自信がないけれど、でも彼女が心から安心したように笑うから黙っておくことにした。

 トイレの前で貴子が聞く。

「帰り道はわかる?」
「はい、大丈夫です。お義母さまは先にみなさんのところへ戻っていてください」
「そうね。じゃあ先に」

 広い屋敷だけれど、さっきいた客間からここまではまっすぐだったので迷う心配はないだろう。

 トイレを済ませ、落ちかけていたリップだけを塗り直して蛍は左京のもとへ戻った。が、客間に彼の姿はない。貴子もいなかった。

(玄関のほうかしら)
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