冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
「なに、囮にしても問題はない。隠し子のことは、当の海堂治郎が一番厄介に思っているだろうからな」

 左京は治郎に恩を売るための結婚だと言ったけれど、それだけでなく対赤霧会のためのコマとしても利用できる。そう踏んだから菅井家はふたりの結婚を承諾したのだろう。

 蛍はグッと下唇をかんだ。

(そうか。彼らが優しかったのは、私を使えるコマとして手元に置くため。そういうことだったのね)

 政平に対して、左京がなにも答えないことも蛍の胸を深くえぐった。

(左京さんも……同じなの?)

「いいか。情が移ったなどと言って私を失望させるなよ、左京」

 低くうなる声で政平は言った。それから彼はククッと皮肉げな笑い声をあげる。

「まぁお前には必要のない忠告か。私はな、正直自分の息子よりお前に期待をかけているんだ。なぜかわかるか?」

 左京は無言だ。

「お前が出世のためならすべてを捨てられる男だからだ。親父も俺もそうやってのぼりつめた。次は左京、お前の番だ」

 ようやく聞こえてきた左京の声は、蛍にとっては残酷すぎるものだった。

「馬鹿なことを。俺が女ひとりのために、これまでの労力を棒に振るとでも? ありえない」
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