冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
 頭から冷水をかけられたように、全身が凍りつく。蛍の細い肩がカタカタと震えた。

 これ以上聞いていたら、心が粉々に壊れてしまいそうで蛍は必死で耳を塞いでその場から立ち去る。

 なにも考えたくない、脳はもう働くことなど拒否しているのに、あまりにも簡単なことすぎて理解できてしまう。

(結局私は……海堂家からも菅井家からも左京さんからも……必要とされてはいなかったんだ)

 左京がくれた優しさ、熱く抱き合った夜、キラキラと輝く大切なものたちが指先からすり抜けるようにこぼれ落ちていく。

(全部、幻だったの?)

 痛くて、痛くて、消えてしまいたくなる。

 マンションに戻るなり左京が心配そうに顔をのぞき込んでくる。

「疲れたか? 顔色が悪いぞ」
「ちょっと、頭が痛くて。今夜は自分の部屋で休みますね」

 初めて抱き合ったあの夜以来、蛍は彼のベッドで一緒に眠るようになっていた。腕枕をしてもらって、眠りにつくまで何度もキスを交わして。だけど、今は彼のそばにいるのがつらい。

「料理にはまったく自信がないが、おかゆくらいならなんとか。必要なら言ってくれ」
「いえ、今夜は食欲もなくて」
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