冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
「これが最初で最後ですね、きっと」

 ちなみに蛍は結婚後も旧姓のまま仕事をしている。そもそも結婚自体、上司と人事部にしか伝えていない。

 『みなさんにご報告』的なイベントを蛍にやられても、部のみんなも反応に困るだけだろうと思ったから。

 その後は無駄話もせずに、ふたりで黙々と仕事を片づけていった。

 夜九時半。唯は約束の三分の一を終えるとパソコンを閉じた。

 蛍のぶんはあと少し残っているけれど、彼女のおかげで自分も日付けが変わる前にはマンションに帰れそうだ。

「じゃ、私はこれで」
「ありがとう。ネイルの件以来、山下さんには嫌われてると思ってたから……すごく嬉しかった」

 入社したての彼女のネイルを注意したことがあった。

 キーボードを打ちづらそうにしていたので『落とせばいいのに』と冷たく吐き捨ててしまったのだ。

(あのときは正論だと思ったけど、今から考えると言い方ってものがあったわよね)

 もっとも唯はネイルをやめるのではなく、デコレーションされた爪で器用にキーボードを打つ技術を身につけていたけれど。

「まぁ、正直あれは感じ悪いなと思いましたね」
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