冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
 この期に及んで、まだ彼を心配している自分に失笑する。

 まだ左京と顔を合わせる覚悟はできていないので、サッとシャワーを済ませて自分の部屋のベッドに潜り込む。 

 残業をして芙由美から驚きの提案をされて、おまけにゆうべも寝不足。

 頭も身体も限界まで疲れきっているはずなのに今夜も寝つけなかった。

 一時間か、もしかしたらもう少し経ったかもしれない頃、扉の向こうの廊下に明かりがついた。

(左京さん、帰ってきたんだ)

 時間も時間なので、きっと蛍は寝ていると判断してくれるだろう。そう思っていたのに、トントンと小さく扉がノックされた。

 蛍は慌てて目をつむり、眠ってしまったふりをする。

 扉が開いて彼が入ってくる気配がした。

 額に温かな温もりを感じる。左京の手のひらだ。続いて蛍を起こさないよう気遣っているのだろう小さな声。

「よかった、無事に帰ってたんだな」

 蛍が寝ているのはわかったうえで顔を見に来てくれたのかもしれない。

 しばしの時間が流れたあとで頬に柔らかいものが触れた。

「――愛してる、蛍」

 慈愛に満ちた優しい声。胸の奥深くに染み入るよう。

「おやすみ」
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