冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
 ポケットから財布を出しながら彼がささやく。

「え?」

 男は部屋を選び、金を払う……ふりをしていた。

「あいつが見ている間は焦るな。部屋に入るふりをするんだ」

 蛍の腰を抱きながら彼はゆっくりと奥のエレベーターに向かう。が、エレベーターは素通りして裏口の扉を開けた。

「出たら走れっ、全力でだ」

 こうして蛍は彼と二度目の逃避行をするはめになった。けれど今度はそうきつくなかった。彼は大きな通りに出るとすぐにタクシーを拾ったからだ。

「どちらまで?」
「道案内はこちらでする」

 彼の指示に従い、タクシーは東京の街をグネグネと進んだ。同じ場所に戻ってきり、車の進みづらい脇道にあえて侵入したり。蛍は途中で尾行を警戒してのことと気づけたが、運転手は終始不審そうに首をかしげていた。彼の指示でタクシーが停車する。

「あの、この場所でしたら初乗り料金だったと思いますがいいんでしょうか?」

 乗った場所から直線距離ではそう移動していなかったようだ。運転手は支払いをごねられることを心配しているのか少し不安そうだ。

「もちろん問題ありません。助かりました」
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