冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
「はい。あんなことする必要ありましたか? セクハラだと思うのですが」

 尾行男を騙すためという理由があったことは理解している。なので百歩譲って、唇が触れたことは許す。けれど、その後のことはどうしても納得できない。

「これからホテルに入ろうってカップルのキスなら、あんなもんだろ」

 悪びれもせず左京はけろりと答える。

「で、でも……」

 納得いかない顔をする蛍を見て、彼は少し考え込む。

「まぁ、そうだな。君はさっき素直に礼を言ってくれたしな」

 左京は軽く腰を浮かせて居住まいを正した。

「演技とはいえ悪かったよ。君の大事な初めてを奪って」

 彼にしては真摯な表情で頭をさげてくれたが、火に油を注いだようなもので蛍の怒りは余計に増した。

「は、初めてって。詮索しないでほしいとたった今、伝えたばかりじゃないですか」
「詮索もなにも……誰でもわかる。あんなに下手なキスは初めてだ」

 シレッとしている左京に蛍はますます腹を立てた。

(やっぱりこの人と暮らすなんて、どう考えても無理!)

 勢いのまま蛍はソファから腰を浮かせた。
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