冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
「とにかく、今日は帰らせてください。ボディガードのことも結婚のこともひとりでじっくり考えたいので」

 彼との結婚を受け入れる勇気もないが突っぱねる度胸もまたなかった。赤霧会は怖いし命も惜しい。ひとりになってよく考えたかった。

 踵を返そうとした蛍の手首を彼がつかんで引く。

「それは認められない」
「はぁ?」
「資料を見せてもらったが、君のマンションはセキュリティが甘すぎる。あんなところにひとりじゃ拉致してくれと言っているようなものだ」

 日本がそんなに恐ろしい国だったなんて聞いたこともない。

「戸締りはしっかりしますし、ドアチェーンだって」
「そういうレベルの話じゃない」

 左京の声に怒気が交じる。静かだが彼が怒っていることが伝わってきて、蛍はびくりと身体を揺らす。

「座って」

 口調は穏やかだがあきらかに命令だった。人を従えることに慣れた者特有の圧に逆らえず、蛍は黙ってソファに戻る。

 左京の顔つきがこれまでよりずっと厳しいものに変わる。まるで容疑者を尋問する刑事のよう。

「まず、海堂から十分な金をもらっているんだろう。なぜ、もっといい部屋を借りないんだ?」
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