冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
 最初は彼と治郎をどこか重ねて見てしまっていた。政治家、官僚、上場企業の社長。そういう人種は役に立たない者――蛍を簡単に切り捨てると。

(でも左京さんは違うのかもしれない)

「バレエといえば『白鳥の湖』かと思っていたが、これはそういうのじゃないんだな」

 会場で手に入れたパンフレットに目を落としながら左京は言う。

「今日の演目はどちらかといえばコンテンポラリーに近いですね。伝統的なクラシックの枠にとらわれない現代的なバレエです」
「へぇ」

 ふたりの席は後方のほうだったが、決して見づらくはなかった。蛍はあっという間に舞台に惹き込まれ、存分に酔いしれた。

(プリンシパルのジョシュア、素敵すぎる!)

 今日主役を務めているのは男性ダンサーのジョシュア。若手で伸び盛り、日系アメリカ人ということも手伝ってか日本にもファンが多い。

(重力の魔術師、ぴったりの異名よね)

 バレエにかぎらずダンスの上達はいかに自分の身体を緻密にコントロールできるかが鍵となるけれど、彼の場合は空間までをも支配しているかのように見える。

 寸分の狂いもないのにどこまでも自由で、軽やかさと力強さが共存する。
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