冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
(わ、今の動きだけスローモーションになったみたい)

 時の流れる速度すら、彼の思うがまま。

 万雷の拍手とともに幕がおりた。

「素晴らしかったですね!」

 余韻の冷めやらない、紅潮した頬で蛍は隣の左京に顔を向ける。そこで信じられないものを目にした。

「――え?」

 彼はコクコクと船をこいでいるのだ。

「えぇ~?」

 ガヤガヤと賑やかなロビー。出口に向かう観客の群れのなかに左京と蛍もいた。

(そうよね、官僚の仕事は忙しいもの。家でもよく仕事の電話とかをしているし、きっと疲れがたまっていて……)

「でも、だからといって! あの舞台を前にして寝るってありえないと思うのですが」

 一応、蛍のなかにも左京をかばう気持はあるのだが、口に出しているのは文句のほうばかり。左京からしたら、ひたすら責められているという状況だろう。

「言い訳になるが九割はきちんと観ていたんだ。君のアドバイスに従って次のスターを見つけようと努力もしたが……あの演目は俺には難解すぎた」

 左京はおおげさに肩をすくめる。それから少し先にあるカフェに目を走らせる。
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