冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
 左京はにこやかに会釈を返したが、どことなく空気がピリッとしたのを感じる。彼と左京はあまり良好な関係ではないのかもしれない。

「左京くんもバレエを?」
「えぇ、まぁ」

 幸三郎と呼ばれた男は意外そうに眉をあげた。

「へぇ。私は知人に誘われたんだが……正直、君はこういう世界とは無縁かと思っていたよ。学歴とか出世とか実利的なことに忙しかっただろうから」

 幸三郎の口ぶりは左京を小馬鹿にしているようで蛍はムッと唇をとがらせた。だが、左京は平静だった。まるで言われ慣れているかのように。

「そうですね、俺が無教養な人間であることは否定しません。バレエは妻の趣味です」

 左京が蛍の肩を抱き寄せる。あいさつをという意味なのだと察して、蛍はぺこりと頭をさげた。

「おお、いえ菅井蛍と申します」

 左京が『妻』と紹介したので、そのつもりで自己紹介すべきなのだろう。旧姓で名乗りかけたが慌てて直す。

 幸三郎は蛍を見て「あぁ」と、どこか下卑た笑みを浮かべる。

「なるほど。この娘さんがね」

 海堂治郎の隠し子を品定めする視線が蛍にまとわりつく。それから、彼はポンと左京の肩を叩いた。
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