冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
「俺の親父は、キャリアじゃないけどいい刑事だった。子どもの頃の俺にとっては正義の味方でヒーローだったんだ」

(過去形ということは……)

「お父さまはもう定年退職を?」

 左京の瞳が悲しそうに揺れる。

「いや、俺が中学にあがる前に死んだよ」
「そう……だったんですね」

 これ以上踏み込むべきではないのかも。そう思いつつも、気になって尋ねてしまった。

「事件に巻き込まれたとか、そういう事情ですか」

 左京は首を横に振る。

「いいや。非番の日に、車に轢かれそうになった見知らぬ子どもを助けようとしてね。子どもは助かったが、親父はダメだった」

 どう言葉を返したらよいかわからなくて、蛍は黙る。

 左京は強い目で前を見ている。

「親族はそんな親父を小馬鹿にした。『殉職ならまだ格好もつくが、最期の瞬間まで落ちこぼれだ』ってな」

 左京の痛みが伝わってきて、蛍も顔をしかめた。

「……ひどい」
「くだらない意地だとわかってはいる。けれど俺は警察組織のトップまで昇りつめる。そのうえで、俺の親父は立派な刑事だったと言いたいんだ」

 彼の野心にはこんな理由があったのか。
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