冷血警視正は孤独な令嬢を溺愛で娶り満たす
◇ ◇ ◇

「蛍を俺のものにしてしまいたくなる」

 つい口にしてしまったその台詞は、脅しが半分、本音が半分といったところだろうか。あまりに無防備な彼女に少し警戒してもらいたい気持ちと、言葉どおりの意味と。

 怒るかあきれるか、反応はそのどちらかだと思っていたのだ。でも違った。

 蛍は頬を染め、潤んだ瞳でこちらを見あげる。彼女のこんな顔を見るのは初めてで、左京はゴクリと唾をのみ込む。自身のコントロールの範疇をこえて、急速に身体の芯が熱くなった。グラグラと理性が揺らぐ。

 蛍は美しい女だ。京都で初めて会ったときからそう思ってはいた。まずなによりも、その姿勢のよさに目を惹かれる。立っているときも座っているときも凛とした品をまとっていた。顔立ちもキリリとして、あまり甘さはない。直線的な眉に輝きの強い瞳、肌が白いぶん唇の赤みが際立つ。流行のファッションよりも、着物やスーツが似合うタイプ。

 欠点のない美形、おまけにあまり表情が変わらないので彼女はどこか人形めいていた。

(彼女なら安心。そう思っていたはずなんだがな)

 自分と蛍ならば、間違えても恋愛に発展することはない。そう確信したからこそ、左京も安易に結婚を決意した。だが、いつしか……。

 左京はどこか恐れるような気持ちで蛍を見る。

「左京さん……」

 恥じらいをのせた細い声がいやに甘く響いた。

(もっと、奥深くまで暴いてみたい)

 そんな本能を、左京はわずかに残った理性で必死に抑えつける。

「冗談だ。本気にしなくていい」

 白々しい嘘でどうにか場をごまかした。
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