スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
「あなたの年ではピンと来ないかもしれないけれど、ちゃんと考えておいた方がいいことよ」
「言われてみれば、そうですねえ」
 ただでさえ外面のいい奈央子が乗り気で相槌を打っているからか、文乃さんの舌は滑らかによく動く。
 彼女は「失敗例」として自身の兄の話を始めた。
 その人は一言でいえば生真面目なワーカホリックで、特に若い頃は目の前のことに突っ走る傾向にあったという。その後いい年になってから結婚はしたものの、子宝には恵まれなかったらしい。
「だけど、子供は諦めるといって『はい、そうですか』とはならないのよ。兄は跡取り息子だったし」
 ならば結婚そのものも外圧によるところが大きかったのではないかと、勝手な想像が膨らむ。何せ篠目社長の妻の実家だ。彼女自身からも育ちの良さはにじみ出ているし、由緒正しき家柄なのは間違いない。
「で、どうなったんですか?」
 奈央子が先を促すと、文乃さんは顔をしかめた。
「養子を取ることになったわ」
 それで丸く収まったのなら「失敗」というほどでもない気もするが……そう感じるのは、跡取りなど考えたこともない庶民の感覚なのだろうか。
「ホントに困った人だったわ」
 険しい表情を崩すことなく、彼女は呟くように告げていた。
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