スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
「文乃さんも。私が勝手に誘ったので、私のおごりです」
 知らない態とはいえ、社長夫人にまですごいことを言う。
「大丈夫、自分で払うわ」
 そう答えてひとまずカップを手にした文乃さんは、私よりは落ち着いてきたらしい。コーヒーを一口含んでから、自ら会話の口火を切る。
「さっきの話だけど、無責任なことを言ってごめんなさい」
「え?」
「越智さんには、息子のことは諦めてもらわないといけないから」
 ぴしゃりと断じる文乃さんといよいよ恐縮する私を見て、奈央子はようやく合点がいったかのように頷いた。
「そういうことですか!」
 どうしても白々しいと思ってしまうのだけど、向かい側に座る文乃さんは申し訳なさそうな表情を浮かべていた。彼女の持論が本心であると同時に、愛想を使いこなす奈央子に好印象を抱いていたことが伺える。
 アドリブにも定評のある後輩女優が、更に揺さぶりをかけていく。
「文乃さん、貴博さんのお母さんだったんですね」
「ええ。……あなたも息子のこと、知ってるの?」
「もちろんです。彼の舞台を拝見しました」
 当初は同じ舞台に立つ予定だったわけだが、そこは黙っておくようだ。今更役者だなんて告げたりしたら、一気に胡散臭く思われそうだからその判断はきっと正しい。
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