スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
 文乃さんは同意を求めるように問うたが、そもそも私のために相手の懐に飛び込んでいる後輩は首を捻ってみせる。
「さすがにそこは結婚してみないと分からないんじゃないですか? 子供は授かりものだとも聞きますし」
「そうだけど」
「私が言えるのは、深雪さんは貴博さんにベタ惚れだってことくらいですよ」
 意味ありげに動く奈央子の視線に、こちらはまたドギマギして俯いてしまう。
「貴博さんの考えていることは公演以来会っていない私には分かりかねますが、あの人が先輩をもてあそぶようなことはありませんよね?」
「と、当然でしょう」
 ちょっと突っ走るところはあるけど。と、気付けば文乃さんが息子のフォローに回る。篠目家の嫁に相応しいかという問題はさておき、彼女の私に対する負の感情は奈央子が上手いこと拭い去ってしまっていた。
「じゃあ、私たちはもうお友達ですね。私、深雪さんの話でしか篠目家のことは知らないので、今度はお家にお邪魔してみたいものです」
 図々しくもニッコリ笑う奈央子に気後れはしていたものの、文乃さんは彼女の言葉を否定しなかった。そしてチェーン店の庶民的なコーヒーを当たり前のように飲み干し、お茶代の割り勘にも存外普通に対応していたのだった。
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