完全包囲 御曹司の秘めた恋心
「あの人? 君にジュースをぶっかけた奴か?」

私は小さく頷いた。

「目障りなオランウータンって。さっさと動物園に帰れって」

「何だよそれ!」

彼の表情が怒りで滲んでいく。

「で、でもね、時間が経つにつれ、どうしてあんな事言われなきゃならないんだろうって、段々腹が立ってきて、だったら、素敵な女性になってやろうって思ったの。見返してやりたかった」

「やっぱ、最高だな、君は」

彼がフッと笑う。

「あっ!」

この表情、あの時と同じだ。目が合った時もこの表情だった。彼が話してくれた通り、冷たく笑ったのではなかったのだ。
今、はっきりとわかった。

「どうした?」

「今の颯介君の表情」

「え?」

「私を最高だって言ってくれた今の表情、あの時と同じだった」

「えっ、嘘だろっ! ご、ごめん」

「ううん、謝らないで」

彼は13年もの間、私のことを想い続け、罪悪感に苛まれながら生きてきた。私なんかより、ずっと苦しかったに違いない。
彼の愛情が私の全てを包み込む。
私のことをこんなにも愛してくれる人は、この先二度と現れないだろう。

私は、彼の聡明な瞳を見つめた。
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