孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「どちらにせよ死人が出るか」
 マティアス様の話を静かに聞いていたアルト様は、全ての話が終わってから一言呟いた。

「はい。甘いかもしれませんが、僕は生まれ持った家柄だけで決める世にはしたくないのです。それから――魔人も迫害される必要はないかと」
「甘いな。それは恵まれた立場だったから言えることだ。しばらく国は混乱するぞ」
「はい。でも数年後に民がクーデターを起こす方が最悪の事態になるでしょう。今僕が国王と対立して国を変えた方が血も流れません」
「殿下。それはこれから数年の理想論です。現時点でするべきことをまず話してはどうでしょうか」
「ああ、そうだな」

 アルト様が考え込んでいるのを見て、エリアスが口を挟んだ。

「ひとまず直前に迫っている問題、二人の処刑、魔人の殺害、臨時魔法士の処分についてです。アイノ嬢には悪いのですが、おとりになっていただけませんか?」
「どういうことだ」
「そこが国王の首をとる唯一の機会だからですよ。魔の森まで軍が来る場合、王を始め重役たちは安全な場所にいるだけですから。演説中は王が皆の前に立ちます」
「でも警備は厳重なのでしょう」

 ショコラが尋ねると、王子は後ろを振り返って処分されたはずの魔法士たちを見た。

「臨時魔法士たちは僕たちの仲間です。彼らだけでなく、今軍に残っている者も」
「どうやって?」
「それはまた話しますよ。とにかく彼らは仲間です。国は魔人を恐れているのと、魔法士たちを最終的に処分したい気持ちから前線に立たせる仕事を全て彼らに押し付けていますから。演説の日も魔人討伐部隊として、彼らが派遣されます」
「なるほど。確かにそう考えると今回が唯一の好機とも思えるな」
「はい。対魔人の時でなければ、王の警護は王立騎士団が全て行っています」
「今後はともかく今回はそれでいこう。しかしアイノに危険が――」
「やります」
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