まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!
 黒い革張りの執務椅子に腰かけて山積みの書類に目を通し、羽根ペンを走らせていた。

(追加予算の請求書か。資金不足は当初の見積もりが甘かったせいだな。責任者は……ん?)

 手元の書類は大橋の改修工事についてのものだ。

 この国には議会制度があり、王政であっても政策や法律を制定する際には議員たちの承認を得なければならない。

 議員資格を有するのは国王が認めた貴族男性五十人のみ。

 改修工事の予算案を議会に提出した議員はハイゼン公爵で、工事が始まってからの指揮も公爵が取っていたはずである。

 しかし追加予算を求める書類には別の貴族名が記されていた。

(責任を押しつけたのか。公爵のやりそうなことだ)

 ハイゼン公爵家は古くからの名家で、歴史を遡れば同家の何人もの娘たちが王家に輿入れしており血縁関係がある。

 そのせいで公爵家に権力が集中し、一族の多数の者が政務の重役に就いていた。

 現当主のハイゼン公爵は子供の頃にアドルディオンの父である国王と机を並べる仲だったそうで、長らく国王の右腕として活躍してきた重鎮だ。

 アドルディオンが少年時代には数年間、教育係を務めており、世話になった自覚がある。

 しかし政治姿勢にしたたかさを感じてどうにも好感を持てない。

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