凄腕外科医は初恋妻を溺愛で取り戻す~もう二度と君を離さない~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】
「日本酒?」
「日本酒のカクテルなんかもある。何を呑む?」
「ええと……甘いものがあれば」
ん、と宏輝さんはメニューを広げ、いくつかお薦めを教えてくれた。私はザクロのシロップが入っているという、赤い日本酒カクテルを選ぶ。宏輝さんは好きなお酒があるらしく、それをそのままで一合頼んでいた。
ドリンクを待つあいだ、私はぼんやりと部屋の隅にある間接照明を見つめた。竹細工の隙間から漏れる柔らかな明かり。
私が出て行ったとき、宏輝さんはこんなお店を知らなかったと思う。というか、日本酒もそんなに嗜まなかった。どちらかというとワインのほうが好きで──。
北園さんが日本酒を好きなのだろうか。
そんなふうに思うと胸が痛い。微かに俯いた私の手を、宏輝さんが握る。
「茉由里。どうした?」
「なんでも……」
「なんでも、って顔をしていない」
声を固くして宏輝さんは私の顔を覗き込む。さっと目を逸らす私の手を、宏輝さんが男性らしい硬い指先で撫でる。手のひら、それから指と指の隙間や手首の脈のあるあたり。手を触られているだけなのに、ひどく官能的で小さく息を吐いた。
「ど、してそんな触り方……」
「どうしてだと思う?」
そう言いながらこめかみにキスしたあと、かぶりと耳殻に噛み付く。そのまま耳の溝を舐められ、脳に直接囁かれるように耳元で「茉由里」と名前を呼ばれると、耳から腰にびりびりと電流が走ったようになってしまう。
お腹の奥のほうが、もったりと熱を持つ。
「やだ……」
「なにがあったか、どうしてそんな表情をしたのか、教えてほしい。そうしないと」
「そうしないと……?」
彼の舌が耳の裏を舐める。悲鳴が上がりそうになって、慌てて口を押さえる。
「そうしないと、君があられもない声で啼くのを聞かれることになるぞ?」
彼の指先が、すっと胸の頂を掠めるように動く。すんでのところで悲鳴をこらえた。だめ、だめ、だめ……!
「ほら、茉由里」
耳をねぶられながら命令され、あまりうまく頭が動かなくなっていた私は半ば喘ぐように答えた。
「北園さんと来たと思ったの……っ」
ぴたり、と彼の動きが止まる。そうして私の肩を引き寄せ、かきいだいた。
「どうして、そんな……」
「だって、北園さん、インタビューで言っていたもの。たくさんデートしてるって、いろんなお店に連れていくし、連れて行ってもらうって……だから、きっと仲がいいのだろうって」
「全てデマだ。あいつと出かけたことなんかない」
「……え? そんなはずは」
混乱して彼を見上げる。だって、そんな……北園さんは、そんなことをするような人には……。
「この店はな、もともと東京にあったんだ。建物自体は以前は料亭で、それをオーナーが買い取って移転してきた。俺が通っていたのは東京の店の方だ。それも一年程度のことだけど」
「そうだったの」
「眠れなかったんだ」
宏輝さんは言う。
「茉由里、君がいなくて。それで酒量が増えた。親父に説教なんかできない」
「……お父様は、肝臓の手術を受けたって。よくなってよかった。でもそれも北園会病院の」
言いかけたところでキスで唇を塞がれた。目を白黒させてしまう。ゆっくりと離れたそのかんばせは怒りさえ浮かんでいて思わず肩を揺らす。
「ご、ごめんなさ……」
「いや、違うんだ茉由里」
宏輝さんは前髪をかきあげる。
「違う……」