凄腕外科医は初恋妻を溺愛で取り戻す~もう二度と君を離さない~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】
そう言ったきり顔を覆って黙り込む。私はみじろぎひとつできず、ただ彼の横で固まっていた。
そのタイミングでノックの音がして、さっきとは違うバーテンさんがドリンクを持って入室してくる。
宏輝さんが注文したのは、東北のお酒らしかった。かなり辛口だとのことだ。
私は目の前に置かれたカクテルグラスに目を瞬く。日本酒だとは想像できない、かわいらしいドリンクだった。上品な赤がシンプルな部屋に映える。
バーテンさんが出て行ってから、どちらともなくドリンクに口をつける。あまりに美味しくて吐息を漏らすと、宏輝さんが嬉しげに口元を綻ばせた。
「よかった、気に入ってくれたか?」
頷いてお礼を言うと、宏輝さんはますます嬉しそうにする。
「ところで、さっきの話だけれど……親父が受けたのは生体肝移植だ」
「生体肝移植……って、誰かから肝臓を貰うっていうあの手術? お父様、それを嫌がっていたんじゃ」
「受けさせた。俺の肝臓だ」
言葉を失う。宏輝さんの肝臓……⁉︎
「お、お酒を呑んでも大丈夫なの」
「もうとっくに回復している。一ヶ月もせずにもとの大きさに戻っているしな」
飄々と宏輝さんは言って、そこで私は気がつく。移植を受けた、ということは……。
「お父様の手術の成功は、北園会とは」
「関係ない。執刀は早織さんだ」
カクテルを持つ手が震えた。そんな、そんな……。身を引いた甲斐があったと思ったのに……。
けれどすぐに気分を切り替える。宏輝さんのお父様とは関係なく、それでも北園会との提携はプラスなのだし、より多くの人命を救うことに繋がるのだ。
「……北園会で治療を受けていたとしても、結局移植はすることになっていたと思うがな」
「そっか……でも、本当に手術できてよかった。もうすっかり?」
「回復しているし、酒もすっぱり辞めたようだ。深酒するタイプだったからな。まあ俺もその気があったらしいが」
そう言って宏輝さんがお猪口に口をつける。私はじっとその様子を見ていた。
私がいなくなって、お酒がないと眠れなくなるほどだなんて。
「宏輝さん。くれぐれもお酒、控えめにね」
「……別れるの前提みたいな言い方するなよな」
「だって」
「だって?」
宏輝さんはお猪口をテーブルに置き、私の肩を強く掴む。
「宏輝さん?」
「京都に残りたがるのは、あいつのせいか?」
「え?」
「くそ、人選を間違えた──まさか茉由里に惚れるなんて」
「惚れる? 誰が」
「あいつだよ。高岸」
宏輝さんが私を抱きしめる。
「さっき確かめた。君への感情を認めたよ」
「まさか、そんな……」
「君がどれだけ男を惹きつけるか。知らなかっただろ、子どもだったころから俺が排除していたからな」
私は目を丸くする。排除……⁉︎
「お願いだ茉由里、一緒に東京に来てくれ」
「でも……っ。私、歓迎されていないんじゃ」
「誰に?」
「上宮家の、みなさん……美樹さんも」
その懐かしい名前を呼んで、じわっと声に涙が滲む。いまもどこか、実の姉のように慕っている彼女。
「美樹さんだって、北園さんとうまくやっていたでしょう?」