凄腕外科医は初恋妻を溺愛で取り戻す~もう二度と君を離さない~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】
「あれは北園の行動を監視していただけだ」
「え? 監視……って」
宏輝さんは何も言わず、私の手を握る。さっきの切なくて痛そうな顔をしていた。
「どうか着いてきてくれ。まだ俺を信頼してくれていなくていい……愛していなくとも構わない。祐希を守るためだけと思ってくれたとしても」
そう言って彼はカーディガンのポケットからベルベットの小箱を取り出す。そこに入っていたものを目にして、私は目を疑った。
「これ……」
ダイヤの指輪は、彼がかつて私に贈った婚約指輪。そしてクンツァイトは実のお母様の形見の指輪だ。
永遠と無限の愛。
「受け取ってくれないか」
「だめ……そんな、もう、私は……」
顔を覆う。現実を知ってしまった私は、夢から醒めた私は、映画のお姫様のように王子様に幸せにしてもらうのを待つわけにはいかない。
「茉由里。君が他の男と愛し合うのかもしれないと、そう思っただけで俺は死にたくなる」
ハッと顔を上げる。
「そんな……」
「頼む」
「……宏輝さん。現実的な話をしませんか。祐希のこれからをどうするのか、認知するかしないのか、それから宏輝さんがどうしても気にかかるのならば養育費なんかの話も」
宏輝さんは私をじっと見つめ、それから呟くように言った。
「全部言う通りにするから俺と一緒に暮らそう」
「っ、そうじゃなくて」
「知ってる、わかってる。じゃあほかにどうしたらいいんだ、もう君なしの生活なんか無理だ……!」
宏輝さんが私を再び抱きしめる。迷子の子どもがぬいぐるみを抱きしめるような、そんな必死な動きだった。
大きな手のひらが震えている。
「無理だ、もう無理だ」
「宏輝さん」
「お願いだ、茉由里、頼む……」
私は彼の広い背中に手をまわし、ゆっくりと撫でていく。背骨に指先が触れた。少し痩せたと思う。胸が痛んだ。
彼にとって、私はなんなの。
そんなに求めなくてはならないような存在なの?
なんの役にもたてないのに。
結局、私は彼に連れられるように、東京へと戻ることになった。
宏輝さんと結婚はしないという決意に変わりはない。宏輝さんも「とりあえずはそれでいい」と受け入れてくれた。
ただ、祐希に何をされるかわからないという不安と、宏輝さんにこれ以上迷惑をかけたくないという感情……、ううん、言い訳はやめよう。単純に宏輝さんが心配でならない。
本当ならば、離れていた方がいい。そうじゃないと前以上に宏輝さんを愛してしまいそうで怖い。
叔父さんには前から話がされていたらしく、すでに別のアルバイトの人が手配されていた。
「いつでも戻ってきていいんだからね」
叔父さんの言葉に小さく頷き、祐希を産みここまで育てた京都の地を離れた。
新居だと案内されたのは、以前住んでいた世田谷の低層マンションではなく、宏輝さんがいま勤務する病院の近くにある高級タワーマンションだった。宏輝さんは広々とした日本庭園のある家で育ったせいかあまりこういった建物を好まない傾向があるのだけれど、なんでもセキュリティ上の問題で、警備がしやすいのだということだった。ワンフロア全てが住居用のスペースだ。
東京駅に到着したときすでに十八時を過ぎていたため、マンションについたころにはすっかり日が落ちていた。
窓からは東京のきらきらしい夜景が一望できる。川底に沈むビー玉のように、どこか幻想めいていた。今現在の状況に、いまいち実感がないせいかもしれなかった。
「広すぎて掃除が大変そう」
私はぐるりとリビングを見渡しながら呟く。来る最中の車で眠った祐希は、寝室に用意されていた子ども用ベッドで眠っていた、
「週に三日ほど、尾島が掃除に来る」
「尾島さんが?」
宏輝さんの実家で家政婦をしている女性だ。六十代半ばの人あたりの良い人で、私も昔からお世話になっている。
「彼女は信用できる」
宏輝さんの雰囲気がピリッとした。それだけ私と祐希の身辺に気を遣っていたのだ。
「申し訳ないな……」
そう言いながら、私は彼からマンションの説明の続きを受けた。
「寝室、ひとつしかないの?」
寝室には、クイーンサイズのベッドがひとつ、子ども用ベッドがひとつ。
これだけ広いのにゲストルームすらない。さすがに意図がわかる。なにがなんでも同じ寝室を使うという意地だ。
「宏輝さん。私はあなたと結婚するつもりは……状況が落ち着けば、また祐希と出ていくつもりです」
「そうか」
宏輝さんはとん、と壁によりかかり目を細める。
「祐希の弟か妹がいても?」
「そ、そんなことには」
「なるよ。なる。させてみせる」
私はきっ、と宏輝さんを見つめる。
「宏輝さん、いい加減に気がついて。あなたが結婚するべきなのは、私じゃなくて北園さんみたいな女性だよ」
確かに上宮病院と、北園会には提携をめぐってゴタゴタがあるのかもしれない。私と祐希を狙ってまで……という人もいるのかもしれない。
ならばだからこそ、友好だと内外に示すべきなんじゃないだろうか。
胸の痛みに耐え、しどろもどろになりつつそんなことを説明し終えた私は顔を上げて凍りつく。
「宏輝さん……?」
「茉由里。二度とあんな女の名前を出すんじゃない」
「え? きゃっ」
宏輝さんは私を横向きに抱き上げた。そのままリビングに向かい、座り心地のよい広々としたソファに横たえられる。目を丸くしているうちにのしかかられ、するすると服を脱がされる。
「待っ……宏輝さん」
「待てない。無理だ、茉由里」
宏輝さんが切羽詰まった声で言う。
「やっと取り戻せたのに。また俺は怯えなくてはいけないのか? 君がどこかに行くんじゃないかって、何か酷い目に遭ってやしないかと不安で眠れない夜を過ごさなくてはいけないのか? 他の男といるんじゃって、胸を掻きむしりたくなる夜を?」
「宏輝さん……」
「愛してる、茉由里。いい加減に諦めろ。俺から逃げられるなんて思うんじゃない」
私は目を瞬き──それでも唇を噛み、首を横に振る。だって私といることが彼にとっての一番の幸福だと、どうしても思えないのだ。
自信がない。
宏輝さんを幸せにしてあげられる、そんな自信が……。
そんな卑屈な私に、宏輝さんはこれでもかと甘い言葉を囁き続ける。
大好きで大きな手に触れられ、蕩され、気がつけば彼を受け入れていた。彼のもので充溢させられ、何度もむさぼるキスをされ、高みに無理矢理上らされて。