凄腕外科医は初恋妻を溺愛で取り戻す~もう二度と君を離さない~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】

 忘れるべきだ、と思う。北園華月さんのことだ。

 宏輝さんにふさわしい女性が私の他にいるという考えは、変わらず腹の底で燻っている。
けれどもう北園さんに関しては思い悩まないほうがいい。きっと宏輝さんは北園さんをパートナーには選ばないだろう。祐希のことをこんなに一心に愛してくれるような彼が、子どもを道具としか看做さない女性を選ぶとは思えない。

 思えないのに、想像してしまう。ビジネスが絡む結婚である以上、それくらいドライなほうがいいと判断することもあるんじゃないかとか、宏輝さんも冷徹な一面があるから馬は合うんじゃないかとか、そんなどうしようもない想像だ。

 もしそうなっても、宏輝さんは私たちを見捨てはしないだろう。出ていけとも言わないはずだ。このタワーマンションの最上階で生きていくのだ。彼が帰ってこなくなった、この部屋で……。

 想像するだけで苦しくなって、宏輝さんが長引く手術で病院に泊まりになったある夜、祐希が眠ったあと、私はこっそりとふたつの指輪を薬指につけてみる。そしてなんの不安もなく幸せだったあの頃と全く変わらず彼を愛しているのだと、はっきりと自覚した。

「宏輝さん……」

 自覚すればするほど、考えがごちゃついて自分がよくわからなくなる。

 最初に身を引いたのは、上宮病院と、宏輝さんのお父様と、そして患者さんのためだった。ただこれは、宏輝さんいわく全て解決しているらしい。

 そして今、彼を受け入れられないのは、離れている二年間で自分が彼にふさわしくないと身に染みて分かったからだった。何も彼に返せない私。

 なのに彼が迎えにきてくれて、こうして守られていると、どんどん理性が恋慕で麻痺してくる。このまま彼のそばにいたい、彼の妻として生きていきたいって。

 わがままだとわかっているのに、そう思ってしまう。思考は完全に袋小路で、私にはどうしたらいいのかわからなくて。

 そんな不安定な精神状態が祐希にも伝わるものなのか、はたまたそんな時期なのか、夜まとまって眠るようになってきていた祐希が夜泣きをするようになった。

 普段激務な上にあまり眠れないだろう宏輝さんを起こしてしまうのが嫌で、寝室から抱っこして抜け出そうとするも簡単に捕まる。

「最近こうなのか?」
「……うん」

 仰け反って泣く祐希を受け取って、宏輝さんがとんとんと背中を優しく叩く。しばらくすると泣き疲れたのか、すとんと落ちるように再び眠った。

「あの、宏輝さん。起こしてしまうの申し訳ないから、別の部屋で寝ない?」
「俺に死ねと言ってる?」

 宏輝さんは祐希を子どもベッドに寝かせたあと、私をベッドに引き摺り込みぎゅっと抱きしめて言う。

「茉由里が近くにいないと安眠できない」
「でも……」
「おやすみ、茉由里。心配するな。夜に起きることには慣れているんだ」
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