凄腕外科医は初恋妻を溺愛で取り戻す~もう二度と君を離さない~【極上スパダリの執着溺愛シリーズ】
私は宏輝さんの体温にうとうとしながらも、やはりうまく眠れなくて……。
そんな日々が続いていた六月半ば、ぴかぴかに磨き込まれた窓に大雨が打ちつけるそんな日。来てくれていたお手伝いの尾島さんと一緒に、祐希のおやつに豆腐蒸しパンを作ろうとしていたとき、キッチンでめまいを起こしてしまった。床に座り込み、くらくらして吐き気すらする。どうしよう、なんとかトイレまで……。
「茉由里ちゃん! 大丈夫?」
「だ、大丈夫です。あはは」
苦笑して立ちあがろうとするのにひどい船酔いのようになって立ち上がることができない。
「き、救急車」
「大袈裟です、尾島さん……」
「何言ってるの、そんな顔色をして! ……茉由里ちゃん、茉由里ちゃん⁉︎」
尾島さんに名前を呼ばれながらも、私は視界が真っ黒になっていくことに抗えない。
目を覚ますと、消毒液の匂いがした。
「どこ……? 祐希……」
夢うつつ、うまく動かない舌で祐希を呼ぶ。尾島さんがいてくれているから、きっと大丈夫だとは思うけれど……
「茉由里」
お母さんの声に目を向ける。心配そうに眉を寄せたお母さんが私の髪を撫でた。そこでようやく、ここが病室なのだと分かった。点滴のチューブが視界で揺れる。
けれど、それにしては豪奢だ。昔、宏輝さんに連れられて行った高級ホテルの部屋みたいに広いし、照明も凝っているし、テレビも大きい。閉まっているカーテンも上質なものだと一目でわかる。点滴を除けば唯一、リクライニング機能付きのベッドにある転落防止の柵だけが病室らしいものだった。
「目が覚めた? 祐希は尾島さんが見てくださってるわ」
「そうなの。ありがとう」
あたりを見回し、どうやらもう日が暮れているとあたりをつける。
「私、どうして……」
「疲れがたまっていたそうよ。大したことはないみたい。明日まで入院だそうだから、よく寝ておきなさい。それで……」
「茉由里!」
勢いよく開かれるスライドドアに、ああこれも病室らしいなと思う。宏輝さんは紺色のスクラブ姿で、はあはあと肩で息をしていた。
「宏輝さん……」
身体を起こそうとした私を、お母さんが押し留めた。宏輝さんが大股に部屋に入ってくる。とすんとベッド脇の椅子に座り、大きく息を吐いた。
「君が倒れたと聞いて……生きた心地がしなかった……」
見れば、宏輝さんの指先は細かく震えていた。ハッとして頭を下げる。心配をかけてしまった。